TOKYO

「旅」と「暮らし」が一体となった
新しいライフスタイルが、熱海からはじまる。
海、山、温泉、そして昔ながらの歓楽街。
そんなリゾート環境に拠点を持ち、
数日間を過ごしてみる。
ある日はその街で、ローカルのような
ウェルビーイングな日常を。
ある日は伊豆半島へ足を伸ばして、
未知の刺激を。
圧倒的な絶景に息を呑み
新鮮な食材に活力を得て
源泉に身を委ねて心身を癒す。
日常に、エネルギーが満ち溢れる。
東京から38分、
HUBからはじまるNICE TRIPへ。

絶景イメージ
絶景イメージ
絶景イメージ
絶景イメージ
絶景イメージ
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絶景イメージ
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絶景イメージ
絶景イメージ
絶景イメージ

熱海からはじまる72時間。
それは、
なんでもできて、
どこへでもいける時間。
72時間をめぐる、
3つの物語。

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ATAMI IZU NANAJUNI:図

CONTENTS

海に拠点を持つと、過ごし方のバリエーションは大きく広がる。
過ごす時間を、仮に3日間72時間とすると、なにができるだろう。

NANAJUNI それは、 「もっと深く」 「もっと広がる」 「もっと安らぐ」体験ー。

目次

1 ATAMI NANAJUNI

熱海ローカル・パスポート

1

0日目、夜7

1

発車のベルがけたたましく鳴る。
私は、あわてて新幹線に駆け込んだ。
彼女と笑い、そうして、日常とおさらばすることを祝うように缶ビールでまず乾杯する。
深い息が漏れる。

いまは、木曜、19時、東京駅。
これからの、金曜・土曜・日曜。
私たちを待ち受けている美しい海、南国情緒、都会では得難い本物の温泉を思う。
来るたびに魅了されるあの街を本当に満喫するには1日では足りない。2日でも、まだ。たっぷり3日間過ごしてみたら、あの街はどんな顔を見せてくれるのだろう。
「次は、熱海。熱海」
たったの38分。さあ、72時間がはじまる。

普段はホテルに泊まっていた。
だけども、今回は3日間。ローカルのように熱海で過ごしてみたかったから、宿泊先はいつもとは違う。
かつて東京の企業の社長によって、たまの休みをリフレッシュするために建てられた別荘。それがバケーションレンタルとして生まれ変わったと聞いて予約した。
熱海駅からタクシーで約10分、高台の別荘地にある、小ぶりだけれども美しい日本家屋。部

1

屋にはモダンな家具とくつろげる空間が。
ここが、私たちの72時間の活動拠点(ハブ)だ。熱海の家だ。
当たり前のように温泉が出る浴槽で一日の疲れを癒やし、これからの時間を想う。普段であれば時間を惜しんで夜でも店巡りをしていたが、今回はもっとゆとりがある。自分の心の赴くままに、時間を使うのだ。
デッキから市内の夜景と星空を楽しみ、その静寂の中で、私たちは眠りについた。

1

1日目、朝6

1

熱海の高台で迎える朝の空気は峻烈だ。森や山の緑の濃い匂いと、相模湾をなめて届く潮風。それらの混ざった独特の空気を深呼吸し、脳がゆっくりと目覚める。はるか海洋の先からは黄金の太陽がゆっくりと立ち上がる。
私たちは宿に備え付けのコーヒーを淹れ、朝食をとり、ソファでくつろぐ。
まったく東京と変わらないスタイルだけども、環境はまるっきり変わっている。日常と非日常のはざまで、不思議な気持ちになる。

海沿いへでかけた。犬の散歩をしている老夫婦と会釈を交わす。子どもたちが走り抜けていく。
私たちはベンチに座り、ただ海を眺めて会話をする。そのうちどちらからともなく立ち上がり、街を散策する。
昼は町中華。有名な店や場所は、実を言うともう飽きている。普段では入らなそうなスポットに気ままに足を運び、ときにローカルたちと話す。
「熱海のうまい鮮魚店はさ」
「昔、ここらへんは花街で」
「最近はおもしろいアーティストが増えてるよ」
その会話のすべてが、活きた街の情報だ。旅の予定は白紙。だからその情報が余白を埋めていく。

夕刻になり、渚町へ赴く。昔ながらの昭和レトロな歓楽街で、早くから飲食店も開いている。最近では実力のある新店が続々オープンしており、熱海の新しい食の名所になりそうだ、と私

1

は密かに思っている。
「あ〜、ごめんなさい、いま満席で」
ひとつの店に断られた。残念だが、そんなときでも選択肢は多い。割烹料理屋の昔ながらの座敷席で、キンメダイをつつきながら瓶ビール。至福のひとことである。でも、と彼女が言う。
「さっきの店、結構空いていたよね」
たしかにね、と話をしていると、隣の地元住民と思しきお客さんが声かけてくる。
「あそこはね、地元の住民優先だからな」
熱海は、観光の街でありながら、ローカルだけを受け入れる店も少なくないと聞く。そこで地場のコミュニティが成熟し、文化が引き継がれていくというわけだ。
「そこに行けるようになりたいね」
まだお客さんであることを痛感しながら、私は辛口の日本酒を流し込んだ。

1

2日目、午前10

1

拠点の別荘すぐ近くでゴルフを楽しむ。
ゴルフはたまの趣味だけども、この熱海の絶景でのプレーは格別だ。もっと格別なのは、すぐに拠点に戻り、だれの目も気にせず昼寝できること、なのだが。

私たちは目が覚め、コーヒーを求めに老舗のカフェに入る。近年のサードウェーブコーヒーのテイストなどどこ吹く風、半世紀の歴史が詰まった濃いコーヒーを飲む。
ちょうどそこにいたマスターは御年90歳。
ウディ・アレンのような知的な相貌でいまだ現役。
その立ち振舞に思わず話しかけると、熱海の歴史が口をついて出てくる。漁村に住む人々の反骨精神、湯治場として文壇との交流、風景を変えてしまった戦争や熱海大火。一大民俗誌を読む心地だ。マスターは、こう言って笑う。

「といっても僕も熱海出身じゃないんだ。そんな僕がのびのびと暮らしている。熱海ってのはおおらかですよ」

その鷹揚さが、この街の魅力の一つだと感じた。
そんな風土に引かれ、マスターのような本物の人たちが集まってくるのだ。

夕飯は自炊だ。昨日聞いた鮮魚店で新鮮な魚介を、街の八百屋で仕入れた伊豆の濃い野菜を、
酒屋で伊豆半島のクラフトビールを仕入れて、宿へ。

1

お手製地産カルパッチョは、自慢ではないが店レベルだ。
「素材でしょ、素材」
笑いながら、充実の一日を語る。
同時に、東京では振り返ることも忘れている自分たちに気づいた。

1

3日目、早朝5

1

私たちが向かったのは十国峠だ。
緑と鳥のさえずりの中のトレイルランニングは、一歩一歩が身体をリフレッシュさせていく。
疲労と活力がみなぎるその臨界点で、私たちは圧倒的な感動に包まれる。
かつて十の国が見渡せたことからその名がついたように、駿河湾はもちろん湘南、三浦半島、 山々では南アルプス、そして富士山が私たちを取り巻いている。
こんなアクティビティが熱海でできるとは思ってもいなかった。
長い余韻が続く。
昂ぶる感情を抑えるように私たちは、「朝風呂」へ向かう。
地元住民に長く親しまれている朝銭湯は、当然掛け流しの温泉。朝の光とともにお湯がきらめき、心身が潤っていく。
地元住民が入ってきた。常連ばかりなのだろう、誰だっけ?という顔をする。自然と自己紹介をしていた。
「そうかい、東京から。実はこの銭湯の源泉が一番いいんだよ。いいところを見つけたね」
たしかに、驚くほど身体が温まった。街の潮風が気持ち良く感じられる。
宿に戻り、チェックアウト。
私たちはゲストハウスのラウンジで昼食を取る。店の雰囲気のせいか、自然とそこにいる地元の若い人々と話す。次から次へと、知り合いを紹介される。
その全員との再会を約束して、店を出る。こうして街との関係が強まっていくのだろう。

1

私たちはまた、海にいた。何もすることはない。行き交う人々や鳥、船をボーッと眺めるだけ。
疲れは一切ない。充足だけがある。でも、やり残したことがある。
「あそこ、行ってみようか」
私たちは一日目に断られた店を訪ねた。店主はあれ、という顔をした。そしてその先に、
見知った顔が座っている。
「あれ、まだ熱海にいたのかい」
声をかけてきたのは、喫茶店のマスターだ。
「知り合いですか、どうぞ」
そう言って、店主は店の中にいれてくれたーー。

食、自然、おおらかな人々たちと、それらが織りなす優しい関係の輪。
私たちは、熱海に、ローカルに、ちょっとだけ近づいた気がした。
そして、3日でもまだ足りないな、とうなずき合った。

2 ATAMI NANAJUNI

伊豆のメインディッシュ

2

「伊豆は久しぶりだ。20年、いや30年になるかもしれないな。こんな道もなかったよ」
縦貫道を走る車内で、古希を迎えた父が独り言のようにつぶやく。
「熱海は何度も来たけれどね。新婚旅行で気に入ってね」
母は高揚している。その横ではしゃぐ孫ー私の娘と久しぶりに会えたからかもしれないけど。
「まあ、今日は任せてよ。2人が好きそうな場所、たくさん行くからね」
「運転するのは俺だけどな」
夫が言って、みんな笑った。
本当に、こんな時間は久しぶりだ。

「なあ、そろそろお義父さん古希だよな。お祝い、盛大にやってあげたいな」
夫がそう言ってきた時、私は率直に嬉しかった。
「そうね、でもあまり豪華なのは好きじゃない人だし。ちょっとしたレストラン、でもいいんじゃない?」
「でも、いいか」
一時間後、夫が「ここは?」と言って私に見せてくれたのは、ちょっといいレストラン……では全然、なかった。ただわさびがご飯に乗っかっているだけの写真。なにこれ?という顔をしている私に
「伊豆のわさび丼。前に仕事でたまたま食べたんだけど、強烈だった。でもそのあと、めちゃくちゃ元気になった。いまお義父さん元気ないだろ。だからいいなって」

2

「確かに夫婦そろってわさびは好きだけども。でも、これを食べにわざわざ中伊豆に行くの?」
あ、それで。と夫が続けた。
「元気になるツアーをやろう。熱海に連泊して、伊豆半島をめぐる。絶景スポットや温泉も行きまくる!」
私は、すぐに同意した。

そうして、私たち2家族計5人は昨日、熱海駅で落ち合った。
宿は、ひと目見て気に入った。なにしろリビングから相模湾がスコーンと抜けている。
「わーすごい!おばあちゃん、みて!!」
無邪気にはしゃぐ娘だけれど、私だって十分はしゃいだ。母もはしゃいだ。父は、家の中を歩き回って、いいね、と静かにつぶやいた。
「ここ。ここで鉄板焼ができるんだよ」
キッチンに備えるつけられている鉄板グリルを前に、夫は得意の料理を振る舞う気満々だ。
私たち3世代の、はじめての共同生活がはじまった。

2

旅の最初に訪れたのは、伊豆市は浄蓮の滝。日本の滝百選のひとつ、らしい。
遊歩道を進むうちに、瀑声が近づいていくる。空気感の気持ちよさにも驚く。思わず、深呼吸。
「おじいちゃんは、ここにきたことあるの?」
「実はないんだ。だから来れて嬉しいよ」
「すごいんだよ、滝は!」
娘も来たことがないくせに、一人前のガイド気取り。
そしてその全容が見えてくると、途端に私たちは黙ってただため息をついた。飛沫あふれるその形容しがたい威容に。
「ほんとうにすごいね、きれいだね」
父が目を細めて、娘の肩に手を置いた。

さらに伊豆を下る。
「浄蓮の滝もよかったけれど、そういえば河津七滝は行ったことがあったな。歩くのが大変だけど、あそこも壮観だった。川端康成の『伊豆の踊り子』の舞台でな」
「すみません、伊豆の踊り子は読んでないんですが、お昼ごはんはその河津七滝で取りますよ」
「へえ、あんなところに何かあったかな」
「かど屋ってところです」

2

「おぉ、効く!」
目の前に出てきたあまりに素朴なわさび丼に怪訝な顔をしていた二人は、その一口目で、やられたみたいだ。もちろん、私も。

「おばあちゃん、そんな辛いの?」
そばを呑気にすする娘が聞く。
「辛いんだけど、さわやかっていうのかな。こんなわさび、おばあちゃんも初めてだよ」
わさびは消臭効果、食欲増進効果、抗菌・抗ガン・血栓予防効果が期待できましてと説明する夫に、
「それよりも、シンプルに元気になるよ。生の自然をいただいている気がするね。ありがとう」
父の一言に、私たちは安堵した。

私たちは東伊豆に進路を変えた。着いた先は動物園「アニマル・キングダム」。娘の満足度を上げるためだ。が、思った以上に大人が楽しい。
目玉のホワイトタイガーはあまり近くで見られなかったけど、伊豆らしい広大な土地でたくさんの動物を眺めて散策することがリフレッシュになる。
「なぜか、東伊豆って動物園が多いんだよな。シャボテン公園とか、バナナワニ園とか」
「バナナワニ!?」
なぜか娘が大笑いして、その後ずっとバナナワニ、バナナワニと、呪文のように繰り返していた。いずれもう一度、東伊豆に来ることになりそうだ

2

夕方になった。たくさん歩いて刺激を受けた私たちは、もうお風呂もこのあたりで入ることに決めた。
「別に豪華なところじゃなくていいよ。銭湯でもいい」
と質朴な父らしいリクエストに応えて、夫が選んだのは「高磯の湯」。熱川の公衆浴場。だけど、海が目の前の、特別な公衆浴場。もちろん温泉だ。
他に入浴客はおらず、親・子・孫でゆったりと浸かる。
「あの人、今回のお誘いも最初は億劫だったみたいなのよ。病気してから外に出なくなっちゃって。でも、おかげさまでとっても楽しんでるみたい」
「良かった。ちょっと詰め込み過ぎたかな?でも、お家みたいな宿だから、帰ったらリラックスして明日も楽しみたいね」
「それにしても、今頃、義理の父子で何を話しているのかしらね」
と、母は隣の男風呂に目をやった。

こうして、中伊豆〜東伊豆をめぐる一日目は終わった。宿に着くなり、親と娘は一緒の部屋でぐっすり眠りに落ちた。私は、長い運転と旅のコンダクターを務めた夫をいたわり、ビールをそそぐ。「ベアードブルワリーガーデン修善寺」で購入したクラフトビール。
「おつかれさまでした。そういえば、温泉でお父さんとなにを話したの」
「ん?まあいろいろだよ。それにしても、このビール、うまいなあ」
いろいろ、ね。リビングから星を眺めて、彼は喉を鳴らした。

2

熱海2日目は伊豆南部。
すごく遠く感じる下田も、熱海からであればたったの2時間。
歴史が好きな父は、開国にちなんだ博物館やスポット。
海が好きな母と私は、白い砂浜のビーチ。
動物が好きな娘は、こじんまりとしているけど親しみやすい水族館。
温泉好きの夫は、老舗旅館の趣豊かな千人風呂。
それぞれの行きたい場所に、全員で行く。
そんな選択肢の多い町が下田なのだ。

それでも、やっぱり旅は予期せぬ出逢いが醍醐味だ。
たとえば朝食目当てにふらりと入った港近くの飲食店。
扉を開けると、元気なお母さんの「いらっしゃい!何人?」と元気な声が飛んできた。
店内を見ると、伝統芸能の本から西洋人形、カラオケ器具まで混在している。どこかで見たことあると思ったら、「うちの親戚の家みたいね」と母が言った。
そんな下田の親戚の家で食べたあじの干物定食は、これぞ日本の朝食。そういえば、昔は父と母、それと弟でこんなご飯を囲んでたっけな。

「アケゴコロ」とある巨大でレトロな看板に惹かれて入ったら、
そこは老舗の酒屋さん「土藤商店」。

2

でも、ただの酒屋さんではなくて、下田の民俗資料を集め展示している資料館のようなスペースがあった。
女将さんは一つひとつ丁寧に説明してくれて、なによりも父の目が輝いていた。
「ああ、懐かしい。確かに昔はこんな看板が多かったんだよな」
国を動かす大きな歴史もいいけれど、民の暮らしの積み重ねである小さな歴史が、父の心に響いたようだ。

そんな不意の出逢いを楽しみながら、夕景を西伊豆で拝む。
金色に染まった駿河湾は、想像以上に美しくて、また家族一同見惚れる。
「太陽が溶けちゃうね」
娘が沈黙をやぶり、母が笑った。
ランボーみたいな詩人だね、と父は褒めた。

2

19時、今夜はホームパーティー。私たち夫婦で、事前に仕入れていた伊豆産の海産物や肉を鉄板で焼き上げていく。
伊豆牛と野菜のステーキ。
魚介をふんだんに使ったアクアパッツァ。
海鮮焼きそば。
料理ができるやいなや、娘と親が箸を伸ばす。「食卓を囲む」ならぬ、「鉄板を囲む」というスタイルは、このライブ感が醍醐味だ。
そうしてワインとともに楽しんでいる二人の顔を見ると、今回のお祝いを心から喜んでくれたようだ。

美味しいレストランもいい。
だけど、メインディシュがピーク。
伊豆はすべてがメインディシュ、ずっとピーク。
だから、きっとどこでも、だれでも、忘れられない経験ができる。

「お父さん、何が一番楽しかった?」
私がそう聞いたその時、ドンと爆発音が外に響いた。
熱海名物の花火だ。大輪の花が、大きな窓枠いっぱいに広がり、私たちの顔を明るく照らした。

3 ATAMI NANAJUNI

おとなの合宿

3

Day0/7 熱海

3

俺は停滞していた。
コロナ以降、どうもよくない。
前より仕事のキレがなくなったと自覚していたし、抜け感のない東京が息苦しくなった。だからワーケーションに可能性を感じた。
ベストフィットする場所を探して、熱海に行き着いた。
なぜならここは、ちょうどよく、刺激的。ちょうどよく、知的。

1週間後にはデカいコンペティションがある。
競合には負けられないが、いまはその自信が正直ない。
だからこの1週間、熱海の別荘を借りて、ひたすら磨き上げることにした。

3

Day1/7 逗留

3

クリエイティブな仕事にはインプットが欠かせないとみんな言う。
それはつまりよく生活を楽しみ、よく遊ぶことだ。
そこで吸収したものが身体に流れ込み、アイデアや作品となって現れる。
でも、アンテナを張ってばかりだと疲れてしまうし、鈍ってくる。
そこで自分の意識を無にしてと整えることも、インプットと同じくらい大事になる。
簡単な話、スマホを手放して自然を眺めたり、気持ちよく散歩したり、温泉に浸かったり。
でも、そんな簡単なことが、東京じゃできにくい。
それが、熱海はどちらもできる。
太宰治や谷崎潤一郎といった大作家たちがこの街から名作を生み出していったのは、ちゃんと理由があることだ。

今日、一人で熱海での拠点(ハブ)に入った。

3

Day2/7 環境

3

この拠点は、知的でモダンなラグジュアリーを極めている。
ゆとりある部屋使い、サウナ、トレーニングルーム、ワーキングスペース、もちろんビューの素晴らしさ。
遊びとクリエイティブが直結する仕組みになっている。
著名企業の社長の家だった、という噂もあながち嘘ではなさそうだ。
俺はここに、チームのメンバーを呼んでいる。

でも、まだ早い。
俺の心を整えてからだ。

まずはジムで汗を軽く流す。
そして備え付けのサウナに10分。冷水シャワー2分。そしてテラスでハンモックに揺れながら、駿河湾を眺める外気浴5分。

整った。
完膚なきまでに整った。
サウナ施設が少ない熱海で、この別荘は間違いなくサウナーの需要を満たすだろう。

3

Day3/7 仲間

3

朝5時、東京では考えられない時間に起きる。
寝室に強烈に朝日が入ってくるから自然と目覚める。
そして、その一番頭がクリアな状態で、仕事に打ち込む。
地元のコーヒー店から仕入れた豆で、朝の一杯を淹れる。

昼のオンラインMTGを終えて、俺はチームを迎えに行く。
全部で8人。
彼らがそれぞれに別荘を称賛するのが、自分の家のようにうれしい。

早速、このアイデアソンのキックオフを行う。
場所はチルなリビング。
やはり人と顔をあわせてのコミュニケーションは格別だと感じる。
異なる意見のぶつかり合いから、創造ははじまる。

企画のコンセプトは定まった。

3

Day4/7 饗宴

3

朝、起きるとアートディレクターはテラスでヨガを行っていた。
プランナーは近くの寺で写経へ。
コピーライターは宇佐美の海でサーフィン。
やはり、それぞれがそれぞれの「無」の時間を持っている。
そして、それを実現しやすい街だと実感する。
だから、モチベーションもあがる。

ここからはチームごとに分かれての作業だ。
それぞれが個別のラウンジに分かれる。
疲れたら、それぞれがジムで軽く汗を流したり、散歩する。
そうしてまたアイデアをフレッシュに練り上げる。

今夜は親しくしているシェフに来てもらい、腕を奮ってもらう。
とにかく広く洗練されたダイニングをフル活用したいという思いから、熱海逗留で仲良くなった人々にも来てもらった。
アーティストやゲストハウス運営、編集者など、この街には驚くほどマインドの高い人材が多い。
彼らの抱える課題と、それを乗り越える情熱は、金銭ではないところから出てきている。
素晴らしい食と、新たな仲間たちとの饗宴を通して、チームはまた熱をもらった。

3

Day5/7 関係

3

プレゼン資料はほぼ完成したかに見えた。
クライアントはこのままでも十分に喜ぶだろう。
だが、表面上は美しくても、何かが欠けている。
それが何かがわからない。

一番若いデザイナーがやっぱり楽しくないとだめですね。と言う。
東京だったらそんな直言はしないタイプだが、これだけの期日をこの場所で過ごすと、より「人」と「人」の関係になる。
そして、その言葉がスッと入る。

一度、ダイニングへ行き、みんなでビールを飲む。
料理のできない俺は、昨日の残りを適当に出す。
音楽をかける。みなで踊る。
笑いながら、嘘のないことをしようぜと、誓う。
今日は久しぶりに、夜ふかしをする。

3

Day6/7 素直

3

それでも、やはり熱海の朝は早い。
もはやルーティンになった各々のメンテナンス・タイムを経て、企画の再構築に着手する。
集中と緩和を幾度となく往復して、チームでひとつの解がうまれる。
これは、と思い、スクリーンに写しながらプレゼンをしてみる。

チームが、ドキドキしてくる。
あとはフルスイングするだけだ。

俺は、前夜祭と称して、山を降りて渚町のスナックへ行った。
ママは、熱海の経済人なら知らないものはいない存在だ。
自分がクリエイターだとか、社長だとかの肩書は彼女の前では通用しない。
一人の人間として、正直な思いや他愛のない話をして、帰った。
夜の熱海の波の音は、少し怖かった。

3

Day7/7 拠点

3

仕事にせよ、遊びにせよ、自分のパフォーマンスを高めることは楽しい。
そのために環境を変え、ライフスタイルを変える。
どんな場所がいいかは、人それぞれだ。
だからその拠点を気軽にホップして試していくといい。
俺はたまたま、それが熱海だった。
熱海の、この別荘だった。
この拠点から、新しい自分へと旅立っていく。
HUB A NICR TRIP。

さあプレゼンだ。

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ATAMI IZU NANAJUNI:図

海に拠点を持つと、過ごし方のバリエーションは大きく広がる。
過ごす時間を、仮に3日間72時間とすると、なにができるだろう。

NANAJUNI それは、 「もっと深く」 「もっと広がる」 「もっと安らぐ」体験ー。

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1 ATAMI NANAJUNI

熱海ローカル・パスポート

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0日目、夜7

1

発車のベルがけたたましく鳴る。
私は、あわてて新幹線に駆け込んだ。
彼女と笑い、そうして、日常とおさらばすることを祝うように缶ビールでまず乾杯する。
深い息が漏れる。

いまは、木曜、19時、東京駅。
これからの、金曜・土曜・日曜。
私たちを待ち受けている美しい海、南国情緒、都会では得難い本物の温泉を思う。
来るたびに魅了されるあの街を本当に満喫するには1日では足りない。2日でも、まだ。たっぷり3日間過ごしてみたら、あの街はどんな顔を見せてくれるのだろう。

1

「次は、熱海。熱海」
たったの38分。さあ、72時間がはじまる。

普段はホテルに泊まっていた。
だけども、今回は3日間。ローカルのように熱海で過ごしてみたかったから、宿泊先はいつもとは違う。
かつて東京の企業の社長によって、たまの休みをリフレッシュするために建てられた別荘。それがバケーションレンタルとして生まれ変わったと聞いて予約した。
熱海駅からタクシーで約10分、高台の別荘地にある、小ぶりだけれども美しい日本家屋。部屋にはモダンな家具とくつろげる空間が。
ここが、私たちの72時間の活動拠点(ハブ)だ。熱海の家だ。

1

当たり前のように温泉が出る浴槽で一日の疲れを癒やし、これからの時間を想う。普段であれば時間を惜しんで夜でも店巡りをしていたが、今回はもっとゆとりがある。自分の心の赴くままに、時間を使うのだ。
デッキから市内の夜景と星空を楽しみ、その静寂の中で、私たちは眠りについた。

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1日目、朝6

1

熱海の高台で迎える朝の空気は峻烈だ。森や山の緑の濃い匂いと、相模湾をなめて届く潮風。それらの混ざった独特の空気を深呼吸し、脳がゆっくりと目覚める。はるか海洋の先からは黄金の太陽がゆっくりと立ち上がる。
私たちは宿に備え付けのコーヒーを淹れ、朝食をとり、ソファでくつろぐ。
まったく東京と変わらないスタイルだけども、環境はまるっきり変わっている。日常と非日常のはざまで、不思議な気持ちになる。

海沿いへでかけた。犬の散歩をしている老夫婦と会釈を交わす。子どもたちが走り抜けていく。
私たちはベンチに座り、ただ海を眺めて会話をする。そのうちどちらからともなく立ち上がり、街を散策する。
昼は町中華。有名な店や場所は、実を言うともう飽きている。

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普段では入らなそうなスポットに気ままに足を運び、ときにローカルたちと話す。
「熱海のうまい鮮魚店はさ」
「昔、ここらへんは花街で」
「最近はおもしろいアーティストが増えてるよ」
その会話のすべてが、活きた街の情報だ。旅の予定は白紙。だからその情報が余白を埋めていく。

夕刻になり、渚町へ赴く。昔ながらの昭和レトロな歓楽街で、早くから飲食店も開いている。最近では実力のある新店が続々オープンしており、熱海の新しい食の名所になりそうだ、と私は密かに思っている。
「あ〜、ごめんなさい、いま満席で」

1

ひとつの店に断られた。残念だが、そんなときでも選択肢は多い。割烹料理屋の昔ながらの座敷席で、キンメダイをつつきながら瓶ビール。至福のひとことである。でも、と彼女が言う。
「さっきの店、結構空いていたよね」
たしかにね、と話をしていると、隣の地元住民と思しきお客さんが声かけてくる。
「あそこはね、地元の住民優先だからな」
熱海は、観光の街でありながら、ローカルだけを受け入れる店も少なくないと聞く。そこで地場のコミュニティが成熟し、文化が引き継がれていくというわけだ。
「そこに行けるようになりたいね」
まだお客さんであることを痛感しながら、私は辛口の日本酒を流し込んだ。

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2日目、午前10

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拠点の別荘すぐ近くでゴルフを楽しむ。
ゴルフはたまの趣味だけども、この熱海の絶景でのプレーは格別だ。もっと格別なのは、すぐに拠点に戻り、だれの目も気にせず昼寝できること、なのだが。

私たちは目が覚め、コーヒーを求めに老舗のカフェに入る。近年のサードウェーブコーヒーのテイストなどどこ吹く風、半世紀の歴史が詰まった濃いコーヒーを飲む。
ちょうどそこにいたマスターは御年90歳。
ウディ・アレンのような知的な相貌でいまだ現役。
その立ち振舞に思わず話しかけると、熱海の歴史が口をついて出てくる。漁村に住む人々の反骨精神、湯治場として文壇との交流、風景を変えてしまった戦争や熱海大火。一大民俗誌を読む心地だ。マスターは、こう言って笑う。

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「といっても僕も熱海出身じゃないんだ。そんな僕がのびのびと暮らしている。熱海ってのはおおらかですよ」

その鷹揚さが、この街の魅力の一つだと感じた。
そんな風土に引かれ、マスターのような本物の人たちが集まってくるのだ。

夕飯は自炊だ。昨日聞いた鮮魚店で新鮮な魚介を、街の八百屋で仕入れた伊豆の濃い野菜を、酒屋で伊豆半島のクラフトビールを仕入れて、宿へ。
お手製地産カルパッチョは、自慢ではないが店レベルだ。
「素材でしょ、素材」
笑いながら、充実の一日を語る。
同時に、東京では振り返ることも忘れている自分たちに気づいた。

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3日目、早朝5

1

私たちが向かったのは十国峠だ。
緑と鳥のさえずりの中のトレイルランニングは、一歩一歩が身体をリフレッシュさせていく。
疲労と活力がみなぎるその臨界点で、私たちは圧倒的な感動に包まれる。
かつて十の国が見渡せたことからその名がついたように、駿河湾はもちろん湘南、三浦半島、山々では南アルプス、そして富士山が私たちを取り巻いている。
こんなアクティビティが熱海でできるとは思ってもいなかった。
長い余韻が続く。
昂ぶる感情を抑えるように私たちは、「朝風呂」へ向かう。
地元住民に長く親しまれている朝銭湯は、当然掛け流しの温泉。朝の光とともにお湯がきらめき、心身が潤っていく。

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地元住民が入ってきた。常連ばかりなのだろう、誰だっけ?という顔をする。自然と自己紹介をしていた。
「そうかい、東京から。実はこの銭湯の源泉が一番いいんだよ。いいところを見つけたね」
たしかに、驚くほど身体が温まった。街の潮風が気持ち良く感じられる。
宿に戻り、チェックアウト。
私たちはゲストハウスのラウンジで昼食を取る。店の雰囲気のせいか、自然とそこにいる地元の若い人々と話す。次から次へと、知り合いを紹介される。
その全員との再会を約束して、店を出る。こうして街との関係が強まっていくのだろう。

私たちはまた、海にいた。何もすることはない。行き交う人々や鳥、船をボーッと眺めるだけ。疲れは一切ない。充足だけがある。でも、やり残したことがある。

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「あそこ、行ってみようか」
私たちは一日目に断られた店を訪ねた。店主はあれ、という顔をした。そしてその先に、
見知った顔が座っている。
「あれ、まだ熱海にいたのかい」
声をかけてきたのは、喫茶店のマスターだ。
「知り合いですか、どうぞ」
そう言って、店主は店の中にいれてくれたーー。

食、自然、おおらかな人々たちと、それらが織りなす優しい関係の輪。

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私たちは、熱海に、ローカルに、ちょっとだけ近づいた気がした。
そして、3日でもまだ足りないな、とうなずき合った。

2 ATAMI NANAJUNI

伊豆のメインディッシュ

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「伊豆は久しぶりだ。20年、いや30年になるかもしれないな。こんな道もなかったよ」
縦貫道を走る車内で、古希を迎えた父が独り言のようにつぶやく。
「熱海は何度も来たけれどね。新婚旅行で気に入ってね」
母は高揚している。その横ではしゃぐ孫ー私の娘と久しぶりに会えたからかもしれないけど。
「まあ、今日は任せてよ。2人が好きそうな場所、たくさん行くからね」
「運転するのは俺だけどな」
夫が言って、みんな笑った。本当に、こんな時間は久しぶりだ。

「なあ、そろそろお義父さん古希だよな。お祝い、盛大にやってあげたいな」
夫がそう言ってきた時、私は率直に嬉しかった。
「そうね、でもあまり豪華なのは好きじゃない人だし。ちょっとしたレストラン、でもいいんじゃない?」
「でも、いいか」

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一時間後、夫が「ここは?」と言って私に見せてくれたのは、ちょっといいレストラン……では全然、なかった。ただわさびがご飯に乗っかっているだけの写真。なにこれ?という顔をしている私に
「伊豆のわさび丼。前に仕事でたまたま食べたんだけど、強烈だった。でもそのあと、めちゃくちゃ元気になった。いまお義父さん元気ないだろ。だからいいなって」
「確かに夫婦そろってわさびは好きだけども。でも、これを食べにわざわざ中伊豆に行くの?」
あ、それで。と夫が続けた。
「元気になるツアーをやろう。熱海に連泊して、伊豆半島をめぐる。絶景スポットや温泉も行きまくる!」
私は、すぐに同意した。

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そうして、私たち2家族計5人は昨日、熱海駅で落ち合った。宿は、ひと目見て気に入った。なにしろリビングから相模湾がスコーンと抜けている。
「わーすごい!おばあちゃん、みて!!」
無邪気にはしゃぐ娘だけれど、私だって十分はしゃいだ。母もはしゃいだ。父は、家の中を歩き回って、いいね、と静かにつぶやいた。
「ここ。ここで鉄板焼ができるんだよ」
キッチンに備えるつけられている鉄板グリルを前に、夫は得意の料理を振る舞う気満々だ。私たち3世代の、はじめての共同生活がはじまった。

旅の最初に訪れたのは、伊豆市は浄蓮の滝。日本の滝百選のひとつ、らしい。
遊歩道を進むうちに、瀑声が近づいていくる。空気感の気持ちよさにも驚く。思わず、深呼吸。
「おじいちゃんは、ここにきたことあるの?」
「実はないんだ。だから来れて嬉しいよ」

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「すごいんだよ、滝は!」
娘も来たことがないくせに、一人前のガイド気取り。そしてその全容が見えてくると、途端に私たちは黙ってただため息をついた。飛沫あふれるその形容しがたい威容に。
「ほんとうにすごいね、きれいだね」
父が目を細めて、娘の肩に手を置いた。

さらに伊豆を下る。
「浄蓮の滝もよかったけれど、そういえば河津七滝は行ったことがあったな。歩くのが大変だけど、あそこも壮観だった。川端康成の『伊豆の踊り子』の舞台でな」
「すみません、伊豆の踊り子は読んでないんですが、お昼ごはんはその河津七滝で取りますよ」
「へえ、あんなところに何かあったかな」
「かど屋ってところです」

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「おぉ、効く!」
目の前に出てきたあまりに素朴なわさび丼に怪訝な顔をしていた二人は、その一口目で、やられたみたいだ。もちろん、私も。

「おばあちゃん、そんな辛いの?」
そばを呑気にすする娘が聞く。
「辛いんだけど、さわやかっていうのかな。こんなわさび、おばあちゃんも初めてだよ」
わさびは消臭効果、食欲増進効果、抗菌・抗ガン・血栓予防効果が期待できましてと説明する夫に、
「それよりも、シンプルに元気になるよ。生の自然をいただいている気がするね。ありがとう」
父の一言に、私たちは安堵した。

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私たちは東伊豆に進路を変えた。着いた先は動物園「アニマル・キングダム」。娘の満足度を上げるためだ。が、思った以上に大人が楽しい。
目玉のホワイトタイガーはあまり近くで見られなかったけど、伊豆らしい広大な土地でたくさんの動物を眺めて散策することがリフレッシュになる。
「なぜか、東伊豆って動物園が多いんだよな。シャボテン公園とか、バナナワニ園とか」
「バナナワニ!?」
なぜか娘が大笑いして、その後ずっとバナナワニ、バナナワニと、呪文のように繰り返していた。いずれもう一度、東伊豆に来ることになりそうだ

夕方になった。たくさん歩いて刺激を受けた私たちは、もうお風呂もこのあたりで入ることに決めた。
「別に豪華なところじゃなくていいよ。銭湯でもいい」
と質朴な父らしいリクエストに応えて、夫が選んだのは「高磯の湯」。熱川の公衆浴場。だけど、海が目の前の、特別な公衆浴場。もちろん温泉だ。

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他に入浴客はおらず、親・子・孫でゆったりと浸かる。
「あの人、今回のお誘いも最初は億劫だったみたいなのよ。病気してから外に出なくなっちゃって。でも、おかげさまでとっても楽しんでるみたい」
「良かった。ちょっと詰め込み過ぎたかな?でも、お家みたいな宿だから、帰ったらリラックスして明日も楽しみたいね」
「それにしても、今頃、義理の父子で何を話しているのかしらね」
と、母は隣の男風呂に目をやった。

こうして、中伊豆〜東伊豆をめぐる一日目は終わった。宿に着くなり、親と娘は一緒の部屋でぐっすり眠りに落ちた。私は、長い運転と旅のコンダクターを務めた夫をいたわり、ビールをそそぐ。「ベアードブルワリーガーデン修善寺」で購入したクラフトビール。
「おつかれさまでした。そういえば、温泉でお父さんとなにを話したの」
「ん?まあいろいろだよ。それにしても、このビール、うまいなあ」
いろいろ、ね。リビングから星を眺めて、彼は喉を鳴らした。

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熱海2日目は伊豆南部。
すごく遠く感じる下田も、熱海からであればたったの2時間。
歴史が好きな父は、開国にちなんだ博物館やスポット。
海が好きな母と私は、白い砂浜のビーチ。
動物が好きな娘は、こじんまりとしているけど親しみやすい水族館。
温泉好きの夫は、老舗旅館の趣豊かな千人風呂。
それぞれの行きたい場所に、全員で行く。
そんな選択肢の多い町が下田なのだ。

それでも、やっぱり旅は予期せぬ出逢いが醍醐味だ。
たとえば朝食目当てにふらりと入った港近くの飲食店。
扉を開けると、元気なお母さんの「いらっしゃい!何人?」と元気な声が飛んできた。

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店内を見ると、伝統芸能の本から西洋人形、カラオケ器具まで混在している。どこかで見たことあると思ったら、「うちの親戚の家みたいね」と母が言った。そんな下田の親戚の家で食べたあじの干物定食は、これぞ日本の朝食。そういえば、昔は父と母、それと弟でこんなご飯を囲んでたっけな。

「アケゴコロ」とある巨大でレトロな看板に惹かれて入ったら、
そこは老舗の酒屋さん「土藤商店」。

でも、ただの酒屋さんではなくて、下田の民俗資料を集め展示している資料館のようなスペースがあった。女将さんは一つひとつ丁寧に説明してくれて、なによりも父の目が輝いていた。
「ああ、懐かしい。確かに昔はこんな看板が多かったんだよな」
国を動かす大きな歴史もいいけれど、民の暮らしの積み重ねである小さな歴史が、父の心に響いたようだ。

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そんな不意の出逢いを楽しみながら、夕景を西伊豆で拝む。
金色に染まった駿河湾は、想像以上に美しくて、また家族一同見惚れる。
「太陽が溶けちゃうね」
娘が沈黙をやぶり、母が笑った。
ランボーみたいな詩人だね、と父は褒めた。

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19時、今夜はホームパーティー。私たち夫婦で、事前に仕入れていた伊豆産の海産物や肉を鉄板で焼き上げていく。
伊豆牛と野菜のステーキ。
魚介をふんだんに使ったアクアパッツァ。
海鮮焼きそば。
料理ができるやいなや、娘と親が箸を伸ばす。「食卓を囲む」ならぬ、「鉄板を囲む」というスタイルは、このライブ感が醍醐味だ。
そうしてワインとともに楽しんでいる二人の顔を見ると、今回のお祝いを心から喜んでくれたようだ。

美味しいレストランもいい。
だけど、メインディシュがピーク。
伊豆はすべてがメインディシュ、ずっとピーク。
だから、きっとどこでも、だれでも、忘れられない経験ができる。

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「お父さん、何が一番楽しかった?」
私がそう聞いたその時、ドンと爆発音が外に響いた。
熱海名物の花火だ。大輪の花が、大きな窓枠いっぱいに広がり、私たちの顔を明るく照らした。

3 ATAMI NANAJUNI

おとなの合宿

3

Day0/7 熱海

3

俺は停滞していた。
コロナ以降、どうもよくない。
前より仕事のキレがなくなったと自覚していたし、抜け感のない東京が息苦しくなった。だからワーケーションに可能性を感じた。
ベストフィットする場所を探して、熱海に行き着いた。
なぜならここは、ちょうどよく、刺激的。ちょうどよく、知的。

1週間後にはデカいコンペティションがある。
競合には負けられないが、いまはその自信が正直ない。
だからこの1週間、熱海の別荘を借りて、ひたすら磨き上げることにした。

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Day1/7 逗留

3

クリエイティブな仕事にはインプットが欠かせないとみんな言う。
それはつまりよく生活を楽しみ、よく遊ぶことだ。
そこで吸収したものが身体に流れ込み、アイデアや作品となって現れる。
でも、アンテナを張ってばかりだと疲れてしまうし、鈍ってくる。
そこで自分の意識を無にしてと整えることも、インプットと同じくらい大事になる。
簡単な話、スマホを手放して自然を眺めたり、気持ちよく散歩したり、温泉に浸かったり。
でも、そんな簡単なことが、東京じゃできにくい。
それが、熱海はどちらもできる。
太宰治や谷崎潤一郎といった大作家たちがこの街から名作を生み出していったのは、ちゃんと理由があることだ。

今日、一人で熱海での拠点(ハブ)に入った。

3

Day2/7 環境

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この拠点は、知的でモダンなラグジュアリーを極めている。
ゆとりある部屋使い、サウナ、トレーニングルーム、ワーキングスペース、もちろんビューの素晴らしさ。
遊びとクリエイティブが直結する仕組みになっている。
著名企業の社長の家だった、という噂もあながち嘘ではなさそうだ。
俺はここに、チームのメンバーを呼んでいる。

でも、まだ早い。
俺の心を整えてからだ。

まずはジムで汗を軽く流す。
そして備え付けのサウナに10分。冷水シャワー2分。そしてテラスでハンモックに揺れながら、駿河湾を眺める外気浴5分。

3

整った。
完膚なきまでに整った。
サウナ施設が少ない熱海で、この別荘は間違いなくサウナーの需要を満たすだろう。

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Day3/7 仲間

3

朝5時、東京では考えられない時間に起きる。
寝室に強烈に朝日が入ってくるから自然と目覚める。
そして、その一番頭がクリアな状態で、仕事に打ち込む。
地元のコーヒー店から仕入れた豆で、朝の一杯を淹れる。

昼のオンラインMTGを終えて、俺はチームを迎えに行く。全部で8人。
彼らがそれぞれに別荘を称賛するのが、自分の家のようにうれしい。

早速、このアイデアソンのキックオフを行う。場所はチルなリビング。
やはり人と顔をあわせてのコミュニケーションは格別だと感じる。
異なる意見のぶつかり合いから、創造ははじまる。

企画のコンセプトは定まった。

3

Day4/7 饗宴

3

朝、起きるとアートディレクターはテラスでヨガを行っていた。
プランナーは近くの寺で写経へ。
コピーライターは宇佐美の海でサーフィン。
やはり、それぞれがそれぞれの「無」の時間を持っている。
そして、それを実現しやすい街だと実感する。
だから、モチベーションもあがる。

ここからはチームごとに分かれての作業だ。
それぞれが個別のラウンジに分かれる。
疲れたら、それぞれがジムで軽く汗を流したり、散歩する。
そうしてまたアイデアをフレッシュに練り上げる。

3

今夜は親しくしているシェフに来てもらい、腕を奮ってもらう。
とにかく広く洗練されたダイニングをフル活用したいという思いから、熱海逗留で仲良くなった人々にも来てもらった。
アーティストやゲストハウス運営、編集者など、この街には驚くほどマインドの高い人材が多い。
彼らの抱える課題と、それを乗り越える情熱は、金銭ではないところから出てきている。
素晴らしい食と、新たな仲間たちとの饗宴を通して、チームはまた熱をもらった。

3

Day5/7 関係

3

プレゼン資料はほぼ完成したかに見えた。クライアントはこのままでも十分に喜ぶだろう。
だが、表面上は美しくても、何かが欠けている。それが何かがわからない。

一番若いデザイナーがやっぱり楽しくないとだめですね。と言う。
東京だったらそんな直言はしないタイプだが、これだけの期日をこの場所で過ごすと、より「人」と「人」の関係になる。
そして、その言葉がスッと入る。

一度、ダイニングへ行き、みんなでビールを飲む。
料理のできない俺は、昨日の残りを適当に出す。
音楽をかける。みなで踊る。笑いながら、嘘のないことをしようぜと、誓う。
今日は久しぶりに、夜ふかしをする。

3

Day6/7 素直

3

それでも、やはり熱海の朝は早い。
もはやルーティンになった各々のメンテナンス・タイムを経て、企画の再構築に着手する。
集中と緩和を幾度となく往復して、チームでひとつの解がうまれる。
これは、と思い、スクリーンに写しながらプレゼンをしてみる。

チームが、ドキドキしてくる。
あとはフルスイングするだけだ。

俺は、前夜祭と称して、山を降りて渚町のスナックへ行った。
ママは、熱海の経済人なら知らないものはいない存在だ。
自分がクリエイターだとか、社長だとかの肩書は彼女の前では通用しない。
一人の人間として、正直な思いや他愛のない話をして、帰った。
夜の熱海の波の音は、少し怖かった。

3

Day7/7 拠点

3

仕事にせよ、遊びにせよ、自分のパフォーマンスを高めることは楽しい。
そのために環境を変え、ライフスタイルを変える。
どんな場所がいいかは、人それぞれだ。
だからその拠点を気軽にホップして試していくといい。
俺はたまたま、それが熱海だった。
熱海の、この別荘だった。
この拠点から、新しい自分へと旅立っていく。
HUB A NICR TRIP。

さあプレゼンだ。